2017年05月09日

大学に教育用原子炉は必要か 近大責任者に聞く

大学に教育用原子炉は必要か 近大責任者に聞く
2017/5/8 日本経済新聞

 近畿大学原子力研究所(大阪府東大阪市)は4月12日に研究用原子炉(熱出力1ワット)の運転を3年ぶりに再開した。東京電力福島第1原発事故後にできた新しい安全基準に合格した初めての研究用原子炉で、原子力分野の人材育成に貢献が期待される。伊藤哲夫所長に安全審査での苦労などを聞いた。

■シミュレーターでは学べない原子炉動かす緊張感と責任感

 ――「生きた(稼働している)原子炉」が大学に必要なのはなぜですか。

 「小さな原子炉だが、学生は自分で操作して臨界に持っていく際に緊張する。将来原子力産業で働くことになったときにその緊張感と責任感を忘れないことが大事だ。シミュレーターではなく本物の原子炉を運転し実学を学ぶことが教育上、必要だと考えている」

 「ここの原子炉は1959年に米国が東京・晴海で開いた原子力の国際見本市に出展したものを、近畿大の世耕弘一初代総長(世耕弘成経産相の祖父)が購入し移設した。東京の次はエジプトのカイロで公開予定だったそうだが、原子力の専門技術者の育成のためにぜひとも必要だと判断し、原子力委員長を務めていた三木武夫さんに相談し大阪に持ってきた。1961年の稼働は日本の大学の研究炉第1号で、最初は熱出力0.1ワットだった。その後改造して1ワットにした。安全性は極めて高い」

 ――これまで何人くらいの卒業生がいるのですか。

 「理工学部電気電子工学科のエネルギー・環境コース(2001年までは原子炉工学科)で学ぶ学生が3年生の実習で運転を経験する。これまでに約3000人が実習を受けてきた。3時間の実習時間のなかで20人くらいが1グループとなって制御台に座って実際に制御棒を動かす。原子力関連の産業に就職する卒業生が多い」

 ――福島第1原発事故の後、運転を止め、運転再開まで3年かかった。

 「東日本大震災の後も運転を続け、試験研究炉の新規制基準の施行(13年12月)後の最初の定期検査で止めた14年2月6日まで動かしていた。それからだから、3年以上かかった」

■3年間かかった安全審査 費用1億円、書類は高さ3m

 ――安全審査は苦労が多かったと聞きます。

 「小さな原子炉であるにもかかわらず、商業用原子炉と変わらない対応を要求された。例えば1キロほど離れたところに高速道路があるが、そこでタンクローリーが火災事故を起こしたとして原子炉にはどんな影響が及ぶかデータで示せと言われて、原子炉外壁の温度が何度上がる可能性があるか計算した。想像がつくかと思うが、まったくといっていいほど温度が上がらない。竜巻対策として風速90メートル以上を想定し予備燃料を収める容器を金庫に収め建物内の一室に保管した上、ワイヤで床に縛り付けた」

 「また建物内部での火災に備えて耐火扉があるが、50年以上前につくったもので当時の資料がなく性能を証明できない。結局、新しい扉に交換した。原子炉には3本の制御棒があり1本でも挿入できれば原子炉は止まる。しかし3本とも同じ機構で働く設計なので、万が一の故障に備えるということから別のメカニズムで炉を止める、独立した中性子吸収体を設けた。こうした対策と、審査を受けるため毎週のように担当者が上京したため、3年間で1億円ほどの費用がかかった。作成した書類を積み上げると3メートルほどにもなる」

 ――廃止するという選択肢はなかったのですか。他の大学ではやめたところもある。

 「初代総長以来の伝統もある。また学内の教育だけでなく、全国から小中、高等学校の教員にこれまで約6000人に来てもらい原子力を学ぶ機会にするなど社会的に大きな貢献をしてきた。他大学から原子力を学ぶ大学生の実習も受け入れてきた。大学の経営陣にはやめるつもりはなかったと思う。個人的にはこれほど審査が厳しいとは思っていなかった。見通しが甘かったといえる」

 ――原子炉が止まっている間の教育はどうしていたのですか。

 「国際的な原子力人材の育成を促す文部科学省の資金を得て名古屋、九州、京都大学とともに韓国の慶熙大学に学生を送って、同大学の原子炉を使って実習を行った。慶熙大にはここと同型炉がある。韓国に行けた学生の数は4大学で毎年12人程度と数は限られたが、かろうじて実習を続けることはできた。韓国からも交換で学生が日本に来て福島などを訪問した」

 「今後は海外留学生の受け入れにも力を入れる考えだ。中東などこれから原子力を導入していく国の若者の教育の場として生かしていきたい」

<取材を終えて> かつて5大学にあった原子炉 今や近大と京大だけに
 近大の原子炉が再稼働した4月12日の定例記者会見で田中俊一原子力規制委員長は3年も審査にかかったことを問われ「おもちゃみたいな原子炉だから、もう少し速やかに再開してもよかった」と述べた。「大学側がきっちりした姿勢で臨めばもう少し早くいったのではないか」とも話した。そうした面はあるだろうが、人材育成のため運転再開に力を尽くした現場をもう少し思いやる言葉があってもよかったと思う。
 大学の研究炉は東京大学、東京都市大学など、かつては5大学が持っていたが、いまは近畿大と京大だけ。京大の炉も新規制基準対応のため止まり、国内でひとつも動いていない事態が続いていた。研究炉は原子炉運転の実習のほか、材料開発や放射線の生物影響を調べることにも使われる。大学から研究炉がなくなると原子力関連分野の人材育成や基礎研究が行き届かなくなる恐れがあり、近大の原子炉の長期休止を懸念する声も出ていた。
 今後長期の人材育成などを見通すのであれば、もう少し規模の大きい試験研究炉をどこかの大学に新設することも必要だろう。


posted by 近調図 at 00:00| Comment(0) | ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月13日

原子炉の運転再開

近大、研究用原子炉の運転再開 新規制基準下で初
2017/4/12 日本経済新聞

 近畿大学は12日、研究用原子炉(大阪府東大阪市、熱出力1ワット)の運転を約3年ぶりに再開した。東京電力福島第1原子力発電所事故後にできた新規制基準に基づく安全審査に合格した研究用原子炉が動くのは初めて。原子炉の運転訓練や実習を通じて、学生の教育に役立てる。放射線を使った産業や医療の研究にも生かす。

 近大の原子炉は学生の実習や研究に使ってきたが、福島第1原発事故後の規制強化で2014年2月から3年以上運転を停止していた。

 停止中は韓国の大学にある原子炉に学生を派遣し、運転訓練や実習を続けていた。

 近大は14年10月に国の原子力規制委員会に安全審査を申請した。当初は16年夏にも運転を再開する見通しだったが、設備の詳細な設計の審査や現地での検査などに時間がかかり、運転再開が遅れていた。

 国内では、京都大学の研究用原子炉2基も安全審査に合格しており、早期の運転再開を目指している。ほかに日本原子力研究開発機構が所有する研究用原子炉があるが、安全審査に時間がかかり運転再開のメドは立っていない。
posted by 近調図 at 13:11| Comment(0) | ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。